センスメイキング 本当に重要なものを見極める力
クリスチャン・マスビアウ(著)、斎藤栄一郎(訳)、プレジデント社
昨今文科系の学びは役に立たないため不要なのではという風潮があるなか、人や世界を理解するためにはSTEM(科学、技術、工学、数学)やビッグデータよりも、人文科学(文学、歴史、哲学、芸術など)が重要だという著者の主張に興味をそそられました。
人間のあらゆる行動には先の読めない変化がつきものですが、理系に固執しているとこうした変化に対して鈍感になり、定性的な情報から意味を汲み取る人間生来の能力を衰えさせるそうです。確かに人間の行動を科学の見方だけで説明するのは、容易ではないと思います。
私は大学で経済学を専攻したのですが、経済学は文系の中でも数学を使ったりして比較的理系の考え方も必要な学問だと思います。しかしながら、人間の営みである経済を合理的または論理的な見方だけで解き明かそうとすることに対しては、私自身ずっと違和感を抱いていました。
また、定量的なビッグデータでは、統計的に優位な関係性である相関関係を見つけ出すことはできますが、なぜそうなるのかという理由は説明できません。すなわち、因果関係を見つけ出すような洞察力を育む行為を、筆者は「センスメイキング」と呼んでいます。
では、どのようにしてそのような洞察力を身につけるのか。芸術、自然科学、人文科学、社会科学、言語を学ぶことで幅広い教養を身につけ、いろいろな思考の力が伸び、また哲学という分野が物事を理解する方法、光を当てる上で役に立つそうです。
ただし、複雑な問題を解決するのはそう簡単にできるわけではなく、腰を据えて問題に向き合い、答えを見つけ出そうと努力することを避けては通れないようです。
そして、現実世界のありとあらゆる状況に深く根ざしている文化を理解するからこそ、ひらめきや洞察が生まれるし、独創性あふれる洞察は我々自身から出てくるわけではなく、むしろ我々が暮らす社会の何処かから我々を通して出てくるものであると著者は述べています。
いずれにしろ、私自身は理系の学問だけではなく、これからも文学、歴史、哲学、芸術などの人文科学のいろいろな分野の学びを継続していきたいと思っています。