書評・読書ログ:答えのない世界を生きる:小坂井敏晶
答えのない世界を生きる
小坂井敏晶(著)、祥伝社
フランスの大学で社会心理学を教えている著者が、近代以降今や何が正しいのか「答えのない世界」でどのようにして生きるかを問う本です。とても哲学的な本で、読み進むのに結構時間がかかりましたが、異文化の中で著者が考えたり感じたりしたことが語られていますので、私にとっては新鮮な視点などが多かったです。
この世界に唯一の正解はないという前提で、「過去の宗教裁判やナチス・ドイツなどの政策については、唯一の普遍的真理や正しい生き方があると信じることが問題だ」と著者は述べています。私自身もいろんなことに対して、このようにあるべきだと考えることが多いので、それにとらわれているのは問題だと気付かされましたし、自分の頭で考えることの大切さも改めて感じました。
以下に、本書で私の気づきになった点など挙げてみます。
- 「世界に一つだけの花」の最後の「オンリーワン」のフレーズに、大切なものが隠れていると思う
- 常識の疑問視から思索の第一歩が始まる
- 知識の欠如が問題なのではない。反対に知識の過剰が理解の邪魔をする
- 「夜は助言を身ごもる」(フランスの諺、睡眠中に他の角度から答えが現れること)
- 矛盾のおかげで新しい視点に気づく
- 先入観を捨てる大切さ、そしてその難しさ
- 常識から目を覚ますためには、他者と対話をする必要がある
- 哲学や人文・社会科学では、答えよりも問いの立て方、つまり考え方自体を学ぶ
- 「思うとは自分の『どたま』で思うこと」(小説「邪宗門」高橋和巳)
- 「型のある人間が型を破ると型破り、型のない人間が型を破ったら形なし」(無着成恭)
- 集団が同一性を保つと感じるのは、構成員が一度にすべて交換されずに、少しずつ連続的に置換されるから
- 説明されるよりも、感激して夢中になるときに人間はよく学ぶ
- 私は答えを教えない。問いだけを突きつける。常識を破壊するための授業だ
- 先達の思索や試行錯誤から何を受け取るかが重要
- 授業は内容の質を上げれば良い。話し方だけに気を遣うのは本末転倒である
- 文科系学問の良さは、根拠からの自由の獲得にある
- 異質性への包容力を高め、世界の多様性を受け止める訓練を来たる世代に施すことが人文学の使命
- 大学で学ぶ最も大切なことは、考えることの意味を問い直すこと