書評・読書ログ:逝きし世の面影:渡辺京二
逝きし世の面影
渡辺京二(著)、平凡社
この本も改めて昔の日本について、自分の知らなかったことを教えてくれました。
明治維新前の日本には、本当に豊かな独自の文明があったのだと知らされました。
時代劇などを見ている限りはそのようなことは全く気が付かないのですが、来日した外国人の目を通してその頃の日本では実際どのような生活をしていたのかが分かり、改めて驚いたこともありました。
著者によると、日本の近代化は古い日本の制度や文物を精算した上に建設され、そしてその古い日本の文明が滅んだとしています。
例えば、いわゆるジャパニーズ・スマイル、日本のほほえみについては、後年不気味だとか無意味だとか酷評される日本人の照れ笑いではなく、すべての礼儀の基本であって、あらゆる場で無償で与えられるものだったそうです。それが、明治時代になると、日本の新しい階層の間では、陰りを見せ始めていたようです。
滅んだ古い日本文明の具体的な姿を知るためには、残念ながら祖先がその文明を記述した記録はないので、日本を訪れた異邦人の目からみた証言や記録に頼ることになります。
本書で紹介された古い日本文明の姿をいくつか挙げてみます。
- 機械の助けによらずに高度で豊かな農業と手工業が完成されている
- 誰の顔にも幸福感、満足感、そして機嫌の良さがありありと現れている
- 日本人の無邪気、率直な親切、むき出しだが不快ではない好奇心、人を楽しませようとする愉快な意志、ある意味子供のような人々
- 日本人ほど封建的専横的な政府のもとで幸福に生活し繁栄した国民はない
- 日本人は奢侈贅沢に執着心を持たない
- 家屋があけっぴろげで生活が近隣に対して隠さず開放されている
- 下級階層の日常生活にもありふれた品物を美しく飾る技術がある
- 日本社会のリズムはゆったりと悠長に脈打っていた
- 日本人の上層階層は下層の人々を大変大事に扱い、主人と召使いの間には友好的で親密な関係が成り立っている
- 生活に隠しごとがないように裸体を隠さない
- 男言葉と女言葉の差がほとんどなかった
- 万人が子供を可愛がり、盲愛に近い子供への愛情を示す
- 日本の森林や鳥はよく保護されていた
- 人間は鳥や獣と同じ生きとし生けるものの仲間だった
- 日本人は死や災害を平然と受け止め、それを茶化すことさえできる人々だった
- 日本人は熱烈な信仰からは遠いが、非宗教的であるのではない
- 人々を隔てる心の垣根は低かった
これらの明治維新前の徳川後期の一つの完成した文明は滅びたようですが、私自身の感覚では現代の日本人の気質にまだ多少なりとも残っているような気がします。