書評・読書ログ:お金のむこうに人がいる:田内学
お金のむこうに人がいる 元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた予備知識のいらない経済新入門
田内学(著)、ダイヤモンド社
お金とは一体なんだろうという疑問に答えてくれると思われる本を、これまでいくつか読んできましたが、この本はこれまでとは違う観点でお金というものの意味や役割を説いていると思いました。
お金を持っていても、それだけでは意味がない。働く人がいなければ、お金は力を失うという著者の説明にとても納得がいきました。確かに、お金でモノを購入したり、サービスを受けたいと思っても、そのモノを作ってくれる人やサービスを提供してくれる人がいなければ、お金の使いようがありません。
少子化の問題についても、経済成長などの観点から世間ではよく語られていますが、企業や個人がお金をどのように稼ぐかということよりも、働き手が減ることにより、必要なモノやサービスが提供されなくなってしまうことの方が大きな問題ではないかと思います。例えば、高齢者がたとえお金を持っていても、自分が必要とするモノやサービスを提供してもらえなくなる社会になるかもしれません。
これまで、自分が働くことは、自分のため、すなわちお金を稼いて自分を助けることだという意識しかありませんでした。しかし、いくらお金を稼いでもそれを使うことができなければ意味がありません。働くことの意味は、お金を稼ぐことだけではなく、誰かを助けることでもあります。誰かのお役に立つことも働くことの意義のひとつであるとは、これまで表層的には理解をしていましたが、まさに誰かに働いてもらわないと自分の生活が成り立たないことを考えると、きれいごとではなく、働いて支え合うことは人間の生活、社会にとって必要なことだとわかります。
つまり、自分が日々の生活で消費しているのは、お金ではなく、誰かの労働だということになります。
副題にもある通り、「お金のむこうには必ず人がいる」、誰かのために働く人がいるから、お金が価値を持つのだということです。
個人にとってのお金の価値とは、将来お金を使ったときに、誰かに働いてもらえることで、働く人たちがいなければ価値がないのです。みんなが働くことで、日々の生活に関わるみんなの問題を解決していますが、そのために使われているのがお金だということです。
また、税金についてはこれまで国民の義務だから払わなければいけないという感覚しかありませんでしたが、集められた税が、特定のモノやサービスのために働く人たちではなく、みんなのために働く人たちに支払われることを考えると大変重要なお金です。
今後は技術革新などで、少ない労働でより多くのモノやサービスが提供できるようになると思いますが、私たちが生活をしていこうと思えば、やはり働く人たちがいなければなりません。したがって、今後のためにいくらお金を稼いで貯めるかということを考えるよりも、私自身も含めて高齢になってもいつまでも働けることを目指していくべきではないかと思います。