会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ ー 500年の物語:田中靖浩

会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ 500年の物語

田中靖浩(著)、日本経済新聞出版社

世間をよく騒がせている粉飾決算のニュースを見るたびに、会計とは一体何のためにあるのだろう、そしてどうして不正な会計処理ができるのだろうと、日頃疑問に思っていました。私のイメージでは、会計とは実際に発生したお金に関するやり取りの事実を記録するだけなのに、どうしてそれが不正につながる行為になるのか、よくわからない部分がありました。

しかし、この本を読んで、会計が進化してきた歴史と、財務会計や管理会計・ファイナンスと呼ばれる分野が、それぞれどのような背景を持ち人々の要望を満たしてきたのか、よく理解ができました。

まずは、15世紀イタリアで銀行が生まれ、取引の規模が大きくなり、記録をつける必要性が生まれたために、帳簿をつけるための簿記の技術が誕生しました。そして、毎日帳簿を付け、決算日に棚卸しを行うことで、フローの損益計算書とストックのバランスシートの仕組みが完成したそうです。このように事業の儲けをきちんと計算して、株主に報告する(account for)ことが会計(accounting)の語源だそうです。

ところが、産業革命のイギリスでは、お金の出入りだけで計算していると、大きな投資をした年は儲けが少なくなり、安定して儲けを出すことができないために、減価償却や引当金という手法が生まれました。そして、これまでの現金主義会計から、安定的に利益が計上できる発生主義会計へと移行することになります。しかし、この発生主義会計は計上する配分を変えれば利益が変わるために、粉飾しやすい環境になったようです。これが今日でもある粉飾決算の要因のひとつなのでしょう。

次に、このように株主に報告するための財務会計だけではなく、自分たちの経営上の問題を解決する必要から、経営の儲けを計算するための管理会計がアメリカで誕生しました。そして、経営の採算性を明らかにするために、会計を製品別や事業別などにどんどん分けるようになってきます。売上や費用を製品別や事業別にどのように割り振るかで、製品ごとや事業ごとの資産や利益が異なってきますので、こちらも担当者のさじ加減というところでしょうか。

最後に、ファイナンスは会社の価値を理論的に計算するものですが、こちらも実際のお金のやり取りではなく、将来発生するキャッシュフロー、すなわちどれだけお金を稼ぐかをもとにして計算しますので、未来を描く力が要求されます。もうこうなると、今まで私の持っていた会計のイメージとはまったくかけ離れていますので、これまでよくわからなかったのも当然ですね。それぞれの時代の価値に応じて進化してきた会計ですが、この先も一体どこまで進化するものやら。

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